今年の12月、星野道夫文庫さんで個展をさせて頂きます。
僕が今、木を彫る仕事をしていること、そして、巡り巡ってクマを彫っていること。それは、星野道夫さんの著書に出会ったことから始まった気がしています。
10代も終わりの頃、本屋でふと目に止まった1冊の写真集。
足を止めて手に取ったその写真集の表紙には、夕日を浴びて佇むクマの表情が、美しく写し出されていました。
「クマってこんな表情を見せるんだ」
その驚きと感動が、僕の自然への興味をより深めてくれました。
その写真を撮ったのが、星野道夫さんでした。
それからは夢中になって、星野さんの著書を読みました。
そこからいつか自然に関わる仕事がしたいと思うようになりました。
6年後、僕は東京で、アイヌ文様が施された木彫作品に出会いました。
僕は言葉を失い、感動で立ち尽くしていました。
それは、アイヌの木彫職人が彫った、何か意思を感じる美しい作品たちでした。
それを見て、木を彫ることは、どこかで自然に関わることと繋がっている、
「木を彫ることを仕事にしたい」そう思いました。
感動を与えてくれたその木彫作品の作者に、会わなければならないと思いました。
そうして僕は作者に会いに北海道へ行くため、1年間お金を貯める間、幾度となく悩みました。
ものづくりが好きだった訳でもなく、ただただ漠然とした熱い想いしかなかったのです。
しかし、星野さんの生き方は、僕に語りかけてくれました。
「大切なことは、出発することだった」
今の気持ちを大切に、何もない自分から出発していくこと。
僕は星野さんの言葉をそう捉えて、その作者を探しに出発しました。
不思議なことに、動き出せば道は開けるものです。
僕はその人に出会い、木彫りの道にまっしぐらでした。
その後、東京を離れ、自然の中で暮らし始めた僕は、ふと心に浮かんだクマを、たった一つ彫りました。
けれど、デッサンがうまくいかず、人に見せることもなく、机の引き出しの奥にしまっていました。
それから2年後、星野道夫さんの生まれ故郷、市川にある「ギャラリーらふと」でのグループ展に出展した時、僕は、机の引き出しにしまっていたクマをポケットに入れて持っていきました。
誰に見せる訳でもなく、ただそのクマを持っていたいと思いました。
僕にとって、特別な想いを感じられる場所だったからなのかもしれません。
何がきっかけだったのか覚えていませんが、見せるつもりもなかったクマを、ある人に見てもらうことになりました。
その人がかけてくれた一言に、背中を押された僕は、再びクマを彫り始めました。
今度は、生命を彫る喜びを何より大切にして。
僕は、星野道夫さんに会ったことはありません。
ただ、著書を通じて、僕は幾度となく励まされ、たくさんの幸せな気持ちをもらいました。
限りない夢を与えてくれた星野さんのように、今は僕も、そんな仕事をしていけたらと思うのです。
「星野道夫文庫」さんは、星野さんを愛する方が、開設した私設文庫です。
多くの人に出会ってほしい星野さんの本があります。
そんな幸せな場所で、作品の展示をできることに感謝しています。